初任給で初体験
初めて二丁目にあるゲイバーに行った時のことは、5年経った今でもはっきりと覚えています。
ぼくは社会人1年生で、初給料が出たばかり。
せっかくの初給料を何に使おうかと思って、あれこれと考えていたのですが、今まで興味はあったものの、なかなか足を踏み入れることができなかった二丁目のゲイバーに行こうと思い立ちました。
ネットを利用して、あれこれと情報を入手し、ぼくは二丁目にあるクラブのようなところに遊びに行きました。
元々ノンケの友だちとクラブ遊びはしていたので、いきなりゲイバーに行くよりもハードルが低いと思って、クラブを選んだのです。
でも、もちろん、いつも一緒につるんでいるノンケの友だちにはカミングアウトをしていないので、一人で行きました。
最初はちょっと勇気が要りましたが、ドアの前に立ったら、中から大音量の音が流れてきて、その音に誘われるようにいつの間にかぼくはそのクラブの中にいました。
年上のカレ
とりあえず、ビールを頼んで、ぼんやりとフロアの端の方で中の様子を見ていました。
週末の早い時間でしたが、そこそこ人はいました。
みんな友だち同士で来ているみたいで、一人で来ているぼくには、ちょっと場違いな気もしたのですが、あまり誰もぼくのことを気にしていないようだったので、ぼくもあまり気にしないようにしながら、何となく音楽に合わせて体を動かしていました。
小一時間ほどした頃でしょうか。突然ぼくは声をかけられたのです。
その人はぼくよりも少し背の高い、ごくごく普通の男性でした。街を歩いていたら、その人がぼくと同じゲイだなんて思いもしなかったでしょう。
サトルと名乗ったその人は、何人かの友だちと来ていたようですが、何となく一人でいるぼくのことが気になって話かけてくれたようでした。
年齢はぼくよりも3歳年上の24歳で、そのクラブには友だちとよく来るようでした。
彼は色々と話しかけてくれたのですが、クラブの中だとあまり落ち着いて話をすることができないので、外に出ることになりました。
はじめてのゲイバー
彼は友だちに何か話しかけ、ぼくたちは外に出ました。
サトルさんは二丁目には良く来るようで、そのサトルさんの行きつけのお店に行くことになりました。
二丁目のメインストリートから少し離れた場所にあるビルの4階にあるそのお店はカウンターだけの狭いお店でしたが、とても静かで落ち着いた雰囲気でした。
ぼくにとってはじめてのゲイバーだったので、少し緊張していたのですが、そんなぼくを気遣って、サトルさんは色々なことを教えてくれました。
それまでぼくはゲイバーというと、女装をしたママが接客をするようなお店だとばかり思っていたのですが、それは大きな勘違いで、通常ゲイバーのママ(女装はしていなくても、二丁目のゲイバーのマスターはママと呼ばれています)は、ママの誕生日やお店の周年パーティー以外の時は、普通の恰好で接客をしてくれるのだそうです。
女装をしてお客さんを楽しませてくれるのは、いわゆる観光バーと呼ばれるお店だけだということもサトルさんは教えてくれました。
最初のうちはぼくも少し緊張していたのですが、サトルさんがぼくと同じ山口出身で、さらにそのお店のママも山口出身だということも判明し、ぼくはすっかり気持ちが落ち着いたのでした。
ぼくはお酒はそんなにたくさん飲める方ではないのですが、いつの間にかビールを数杯飲んでいたようで、すっかりサトルさん以外の人とも話が盛り上がり、気づいたら、終電を逃していました。
仕方ないので、始発まで、ぼくはそのお店で他の人たちと一緒に飲んでいました。ゲイバー
ゲイバーの多様性
始発の時間になり、すっかりくたくたになったぼくは、サトルさんと連絡先を交換して家に帰りました。
久々の朝帰りでしたが、それまでに感じたことのないような解放感を抱きながら帰路に着いたのを今でもよく覚えています。
それまでぼくはゲイの友だちがいなかったので、自分の性癖をずっと隠しながら生きてきました。
ノンケの友だちと一緒に遊ぶ時も、女の子のことが好きなふりをしなくてはいけなかったのですが、ゲイバーではそんな心配をする必要もありません。
だから、それがとても楽だと感じたのでした。
それから毎週のようにぼくはサトルさんに誘われるがままに週末になるとサトルさんと一緒に二丁目で飲むようになりました。
サトルさんはいろんなお店を知っていて、それがとても刺激的でした。ゲイバーと一言で言っても、いろんなタイプのゲイバーがあることもサトルさんと一緒に飲み歩くようになって知ったのでした。
たとえば、スポーツ系のゲイが集まるようなバーに行くと、体格のがっちりしたゲイたちがつるんでいました。それとは逆に、ふくよかな体の人が集まる、いわゆるデブ専バーと呼ばれるバーもあります。さらに若い男の子が、自分のお父さんぐらいのおじさんとの出会いを求めていくような老け専バーと呼ばれるバーもいくつかありました。
若い子だけがわいわいと騒ぐバーにはカラオケがあって、みんなで一緒に歌って盛り上がっていましたし、逆にカラオケがなくて、しっとりとした雰囲気で飲む落ち着いたバー(ぼくが最初にサトルさんに連れて行ったもらったようなバー)もありました。
お店の大きさもまちまちで、ぼくが初めて行ったお店のようなカウンターだけのお店もあれば、もう少し大きめの団体さんでも一緒に座れるボックス席も用意されている比較的大きなお店もあります。
さらに、お店によって、いろんなイベントを開催しているところもありました。例えば夏になると浴衣DAYといって、浴衣を着てきた人はワンショット無料というようなイベントを開催し、その日は浴衣姿のお客さんで賑わう、というようなこともあります。
ママの誕生日やそのお店の周年パーティーになると、ママが女装をして、みんなをもてなしてくれたり、その日だけ飲み放題になるというお店も多く、そういうのは、二丁目独特の習慣のようでした。
だから、ぼくたちはその時の気分でそういったバーを選んで遊んでいたのでした。
世界一の密集地帯
サトルさんと一緒に遊ぶようになって半年ほど経つと、他にもいろんな友だちができ、一人で二丁目のお店に遊びに行くようになりました。
二丁目には約200軒ほどのゲイバーがあるみたいで、世界中どこを探しても、こんなに密集した場所にゲイバーが集まっているような地域はないんだそうです。
それはぼくにとってはとても意外なことでした。例えば、ニューヨークやバンコクみたいな街にはこういうゲイバーがたくさん集まっているように思っていたからです。もちろん、そういう都市にもゲイがあつまるお店はありますが、二丁目のように狭い地域にお店が密集しているというエリアはないんだそうです。それを聞いて、日本のゲイカルチャーもなかなか面白いものだと感じました。
サトルさんと一緒に飲み歩いていると、良くいろんな人たちから「ふたりは付き合っているの?」と聞かれるのですが、ぼくたちは今のところまだそういう関係にはなっていません。それぞれシングルではあるのですが、まだ明確にお付き合いという感じでもないし、実は肉体的な関係もまだないんです。
5年も友だちづきあいをしていると、そういう感情が芽生えてこないというのもあると思います。
もちろん、お互いのことを良く知っているし、今でも毎週のように一緒に二丁目のお店で飲んでますが、特別な関係にならなくても良いかなと思っています。
なんせ、2丁目には200軒以上ものお店があり、その中で良く行くお店というのは限られてしまいます。どのお店も自分とぴったり合うというわけではなく、最初は良く通っていても、だんだんといろんな事情で足が遠のいてしまうお店もあります。そういうお店をサトルさんやその仲間たちと一緒に飲み歩くだけでぼくは満足なんです。
続くゲイバー
ぼくが初めてゲイバーに行った時は、まさかこんな風にゲイバー遊びをするようになるなんて思いもよりませんでした。ゲイの友だちもいないし、そんなにお酒が強いわけでもないし。それでも、ゲイバーで飲んでいると自然と友だちが増えていき、それが5年経った今でも楽しいんです。
そろそろ恋人のような存在の人が現れても良いかなという気もするけれども、そればかりは相手のいることなので、気長に探そうかなって思っています。
たまに、お店のママに「お店を手伝ってよ」と言われることがあります。サトルさんはお酒も強いし、話も上手なので、時々ヘルプでお店に入ることもありますが、ぼくはまだまだ奥手なので、どうしても緊張してしまって、お店に入ったことはありません。
でも、人と話すのは楽しいので、お酒はそんなにたくさん飲めないけど、いつか勇気を出してお店を手伝ってみようかなと思うことはあります。
今はまだまだゲイバーを色々と知りたいと思っているから、それはきっともう少し先のことになりそうです。
ゲイバーって、最初はどんな感じのお店なのか全然わからなくて、躊躇していたのですが、行ってみると意外と楽しいです。ぼくみたいにそんなにお酒が飲めない人でも、だいたいのお店は受け入れてくれるし、強制的に飲ませるということもぼくの経験からするとあまりないように思います。
あと、料金もノンケの人たちが遊びに行くスナックと比較すると安いのもありがたい。だいたいセット料金でも2000円前後だし、ショットで飲めば自分の予算内で計画的に飲むことができます。座っただけで何万円も取られるということもないので、安心。そういう情報は最近ではネットでもわかるようになっているので、ぼくは初めてのお店に行くときは事前に調べたり、友だちに聞いたりしてから行くようにしています。
さて、今週末はどのお店で飲もうかなぁ。週の中頃になると、仕事中でもついついそんなことばかり考えてしまっていけませんね。
ゲイバーの体験談となると、ついついあれこれととりとめのない話になってしまってすいません。でも、ゲイバーに遊びに行くのは、気晴らしにもなるし、いろんな出会いもあるから、きっとこれからもぼくのゲイバー通いは続くだろうなって思っています。