この記事にたどり着いた方は、同性婚について興味のある方だと思います。
最近は隣国の台湾でも同性婚ができるようになったり、2021年にあった自民党総裁選や野党第一党の立憲民主党の代表選でも同性婚の是非が争点の一つになるなど、ニュースなどでも何かと「同性婚」という言葉を耳にするようになりました。
同時に、日本でも自治体レベルで同性同士のパートナーシップを証明する証明書を発行する自治体が出てくるなど、少しずつではありますが日本でも同性愛者が日常生活で抱える不便や課題についての理解が進んできています。
同性婚と自治体のパートナーシップ制度、法的なパートナーシップ制度など、ゲイやレズビアン当事者であってもなかなかそれらの違いを正確には理解できていない人も少なくないのではないでしょうか。
今回は日本における同性婚を取り巻く議論と、同性婚が実現した際には私たちの生活はどう変わるかについて解説していきたいと思います!
日本における同性婚を取り巻く議論
同性婚についての議論は、「同性婚に賛成か反対か?」といった単純なものではありません。同性同士がパートナーシップを結ぶことに賛成の立場であっても、以下のような意見に分類されます。
これらの議論の中身を解説していくと、それだけで記事1本分のコンテンツになるくらいに複雑なので今回は詳しくは解説しません。
ただ、これらの議論を見ていると、その全てに「婚姻関係の男女と同等の権利」という言葉が出てきます。この言葉が今日の記事の大きなテーマとなります。
※日本国憲法には第24条に「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」という記述があります。
憲法に両性と記述がある以上、日本において同性婚を実現するには改憲が必要になるという指摘がある一方で、日本国憲法ができた当時は現代に比べて女性の権利が著しく制限されており、結婚する相手さえも自由に選べない女性が多かった中で、女性の権利を守るために「両性」という言葉が組み込まれた背景があるため、同性間の婚姻を制限するためのものではないという解釈も出来うるため、こちらは意見が分かれるところです。
自治体が発行するパートナーシップ証明でできることとは?
では、自治体が発行するパートナーシップ証明書でできることには一体どんなものがあるでしょうか?各自治体によって違いはあるものの、以下のような権利を認めている自治体が多くあります。
- 生命保険の受け取り人への指定やクレジットカードの家族カードの取得などで家族に準じた扱いを受けやすくなる
- 市の医療機関等で、面会や付き添い、手術の同意などにおいて、家族に準じたい扱いを受けることができる
- 公営住宅などへの入居の際、家族に準じた扱いを受けることができる
- 携帯電話の家族割や、勤務先の福利厚生サービスにおいても家族に準じた扱いを受けやすくなる
などが挙げられます。
ここで勘の良い人ならお気づきでしょう。
上記で例示した主要なメリットの語尾の多くが「受けやすくなる」である上に、「受けることができる」と断言したものは市の医療機関や公営住宅など、証明書の発行主体である自治体が運営しているものに限られています。
つまり、生命保険やクレジットカード、携帯電話や福利厚生サービスなどはあくまでも「そのようなメリットを受けられた『事例がある』」という意味合いのものであって、これらの事例についてはあくまで私企業が判断するもので、パートナーシップ証明書があることで婚姻関係にある男女と同等のサービスを提供するかどうかはあくまでサービスを提供する側の企業に委ねられています。
同性婚とは、法的に家族として認められるということ
ここまで見て来たように、現行の自治体によるパートナーシップ制度によってある程度のメリットは享受できるものの、ほとんどの領域においてその関係を男女の婚姻と同等に扱うかどうかは私企業の判断に委ねられており、法的な拘束力はありません。
では、もし日本において同性婚が認められたとしたら、どのような変化が起きるでしょうか?
第一に考えられることとしては、上記で例示したようなシチュエーションにおいて、同性同士のパートナーを男女と同等に扱う「法的義務」が生じます。当然、日本は自由な資本主義社会なので企業が同性婚をしている者だけを家族としては認めずサービスから排除することも可能ではありますが、そんなことをすれば大変なバッシングが起きるでしょうし、そもそも法的に婚姻関係として認められている以上、そうした差別的な扱いを不当として裁判を起こされたら負ける可能性が極めて高くなるため、余程のことがない限りそのような扱いをする企業は現れないでしょう。
同性婚ができるようになると、より経済や福祉に踏み込んだ権利が得られる
同性婚ができるようになると、上記で例示した以外にも様々な権利を得ることができます。
具体的には、下記のような権利です。
- 社会保険において被扶養者になれる
- 所得税における配偶者控除が受けられる
- 相続税の配偶者控除が受けられる
- パートナーが死去した際、相続の権利が得られる
- 医療控除のための医療費合算ができる
- 勤務先においては、男女の婚姻関係を結んだパートナーとまったく同等の福利厚生が受けられる(介護休暇や労災補償の遺族補償など)
- パートナーからDVを受けた際、配偶者暴力防止法に定められた保護が受けられる
多くの人が享受し得る主要な権利は以上のようになります。
パートナーシップ証明書に比べて、より経済や福祉に踏み込んだ内容となっており、何か不幸な出来事に直面した際も法的なセーフティーネットによって守られることとなります。
権利があれば義務もあるー同性婚の注意点とは?
一方で注意点もあります。婚姻関係を結んだ男女と同等の手厚いサポートが受けられるということは、彼らが負っている義務も当然同じように負うことになります。その具体的なものは下記となります。
- 相手の不貞行為は法的に離婚理由として認められている
- 離婚時に慰謝料請求ができる
- 離婚時に財産分与ができる
つまり、浮気の問題とお金の問題については、大きな義務を負うことになります。
シングルのときはあまり深く考えなくて良かった問題が、大きな代償となる可能性があります。
浮気はあまり褒められたものではありませんが、法的な拘束力がないためこれまでは何のお咎めもナシでした。
ただ、同性婚を一度すると不貞行為とみなされ、離婚の正当な事由として認められることとなり三行半を突きつけられることになります。
それだけで済めば良いのですが、多くの場合浮気による離婚の際、慰謝料の請求をされることにもなります。これもケースバイケースではありますが、男女の例を見ると決してポンと払えるような金額ではありません。
また、結婚した相手が無一文で、自身にある程度の貯金や金融資産があった場合はそれらも2人のものとみなされ、離婚の際に半額を持って行かれることとなります。
これらのデメリットは、死ぬまでパートナーと離婚することがなければ直面し得るものではありませんが、結婚とは法的にも互いに婚姻関係を続ける努力をすることが前提となっており、独身時代のように自由ではなくなることはよく認識しておく必要があります。
このように、昨今は良い面ばかりが強調されがちな同性婚ではありますが、現実的な生活の変化やメリットだけではなくデメリットの部分もよく認識してから利用すべきものである点は注意が必要です。
さいごに-ひとつでも多くの選択肢が用意された社会
同性婚にはこのようにメリットもデメリットもありますが、やはりメリットの部分の方が大きいことには変わりありません。
何より、私はこれからの未来を生きる若い世代にとって、一つでも多くの選択肢が与えられているということがとても大事だと考えています。
男女と同じように結婚ができるという事実だけで、自分のセクシュアリティに悩み、孤独感を味わっているような思春期の同性愛者の若者を勇気づける効果もあると思います。
自分で自分の生き方を自由に選べるということ、すべての人に幸福を追求する権利があるということは、自由な国や社会に生きる者が味わえる最大の喜びだと思います。
21世紀も4分の1が経過しようとしている今の時代であっても、独裁主義的な国や権威主義的な国も多く、国民の自由に理不尽な制限を課す国、独裁者の希望的観測だけで無謀な戦争をやる国がある中で、私は自由に発言ができ、今日も安全に暮らして、当然のように夜中に飲み歩いたり同性愛者であるという理由だけでリンチや暴力の被害に遭うようなこともない日本という国がとても好きです。
ですので、この日本という国の標榜する「自由」が、よりバージョンアップしていくことを願っています。